死体になった君の上に乗っている僕のことを赦してほしい。
母が死んだ時にもしなかったほどの劍幕で、どうかその人にだけは汚らわしいと言われたくない嫌われたくないのだと神に祈った日を思い出す。温かい日で、綺麗で静かな雨の日だった。凍った地面に打ち付ける雨の一粒一粒の音は祝福された硝子のようで、この教会にはよく響いていた。
ぽつりぽつりとこぼれた雫は、氷よりつめたい貴女の、二度と動かない皮膚を汚した。
ああ、赦してくれるだろうか。
死んでしまった君にしかできない。
死んでしまった君に口づけるこのわたしのことを、どうかあの世で汚らしがったりしないでほしい。
わたしはかつて神ではなく彼女への獻身と謙遜を表すために身につけていたヴェールをはずして、聖堂の床に放り捨てた。手に握っていた鐵製の瓶をあおり、その頭蓋にふわりと香る匂いをとどめたまま、彼女の唇に口づけた。
© 2008- 和倉蓮子