きみが泣きやむまで

衝動系。

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きみが泣きやむまで


「ねえ、きみはどういうのが好きなんだっけ? 音楽。好きな歌手とか、アーティスト、居る?」
 彼女はいつものように世間話をはじめた。
「あ、そういえば以前に聞いたね。思い出した、思い出した。ちなみに私が最近はまっているのはね、○○○っていう人がつくる音楽で、その人の曲はね、とても優しい音なんだー。インディーズだから知名度はそんなにないけれど、じわじわとファンも増えているんだよ。……なんて、かくいう私もそんなに前から知っているというわけではないんだけれど」
 彼女はいつもとかわらない笑顔で朗々と語り出す。
「考えてみると、インターネットで無償で聞くことができる音楽ってあるじゃない。有償の、メジャーレーベルからCDを出している人たちにだったら、CDを買うことによって好意を、あなたの音楽はお金を払うに値するものだと、伝えられるでしょう。でも、それを生業にしているわけではない人たち、自分がつくりたい音楽を追究して、公共の場に、インターネットにアップロードしている、そういう人たちには、自分から動くことでしか好意を伝えられないのよね。好きです、あなたのつくる音楽は素敵です、そういう風に言葉にして、もしくは絵にして文字にして、わかりやすく表現しなければ伝えられないのよ。昨日の夜は、そんなことを考えていたわ」
 わたしはがしがしと目をぬぐって、鼻をすすった。
 そして、数十分ぶりに、まともな言葉を口にする。
「あ、あ、あり、ありがと、うっ」
 わたしの言葉を聞いた彼女は、いつもよりすこしだけ優しい笑顔をうかべてこう言った。
「気にするなよ、泣き虫さん」




ひとが泣いている時の対処法を知りません。


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© 2008- 乙瀬蓮