神様なんか、居てもいなくても良かった。
彼女がいる屋敷は、外から見たとおり、屋敷というよりも倉のような構造をしていた。一階部分は殆どが物置で、飾り箪笥に隠されるようにあった階段を昇り、長い長い廊下を抜けて何度も角を曲がって襖をいくつも開けて、ようやく見つけたその姿は、壁一面に張り巡らされた木の格子の向こうにあった。
座敷牢。
しかも、格子のこちらがわには簾がかかっているので筋金入りである。
貴臣は、部屋に足を踏み入れた。
まるで、墓地のような部屋だ。
空気が停滯している。けれどどこまでもどうしようもなく澄んでいた。
簾の目の前まで来た貴臣は、右手でそれを掴んで、力任せに剥ぎ取った。
部屋を斷じていた幕が落ち、その向こうに居る少女の姿が明らかになった。
ああ、と貴臣は唇を噛む。
彼女は俯いていた。濡れ羽色の細い髪が重ねた着物の上を流れて床に蟠り、差す陽光は彼女の睫毛の影を白磁の肌にそっと落としていた。絵に描いたような光景。
彼女の視線が持ち上がり、虚ろで光のない大きな瞳が格子越しに、しかし真正面に貴臣を捉えた。
これまで貴臣に纏わりついていた生の嫌惡感が總てすとんと墜ちた。
この瞳のためにきっと在った。
「お帰りください」
この声のためにきっと在った。
格子に指を掛けて、眼を眇めた。
ずっとずっと呼吸ができないことを嘆いていた。疎ましい明るさを背に浴びながら沈むことが嫌で嫌で堪らなかった。でもこの女はここに居たのだ。
「逢いたかった」
まるで告白のように告げると、少女は僅かに眉を顰めた。
© 2008- 和蔵蓮子