ふと視線を落としたらそこに人が立っていたので、諌名はまるで手品を見たような気持ちだった。
――さっきまで、誰もいなかったのに。
陽光を浴びて、今にも溶けて消えてしまいそうな少年だった。その表情は、まるで、自分が迷子だったことを忘れていた迷子が安心に泣き出してしまいそうになっているふうな切実さを帯びている。迷ったのかしら、と諌名は思った。でも、それなら、どうして助かったみたいな顔をしているの?
風に揺れる白髪がとても綺麗に煌めいた。
それはまるで朝の空のように。
何故あの人は諌名の方を見ているのだろう、と思ったところで、自分という存在は人に姿を見られることが好ましくないのだということを思い出した。
誰だか知らないけれど、どれほど困っていようと諌名には関わらない方がいいというのは確かなので、諌名は一度瞬いて、そして窓に背を向けた。なぜだか罪悪感のようなものが胸にきしんだけれど、きっとそれもまやかしだと思った。
そのとき、ふと、思い出した。
――本日はお客様がお見えになるので、在宮さまにおかれましては、けしてこのお部屋から出ることのないようにと――
にわかに心臓が浮き立った。
もう一度身を翻し、窓枠に触れる。庭を見下ろした。
そこには誰も居なかった。
――ああ。
良かった。
ばかみたい、と同じようなトーンで、諌名は、深く溜め息を吐いた。
けして会ってはならないお客様を、諌名のいるような庭に、供もつけずにひとり歩かせることなどありえないし、ましてそんなお客様が諌名に興味を持つわけはないのだ。
はあ、と息をついて、諌名は窓枠に凭れた。
なんだか疲れた。
目を瞑る。
そのとき、前触れ無く襖がぱしぃんと盛大に開いた。
© 2008- 和蔵蓮子