目薬が差せません。


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摩擦係数が0に近づいて等速直線運動が


 はあ、と白い息を吐いた。見上げた空は綺麗に晴れていて、もう十二月も終わろうかという時期にしては珍しい天気。去年の今は、確かひどく曇っていたような気がする。
「晴れてるな、空」
 先を歩く友人に声を掛けると、彼は振り返らないままに返事をした。
 空を見ながら歩いていると、昨年出会った、お化け屋敷講習の女性のことを思い出す。彼女はなんだか本物のお化けのような雰囲気を醸し出していたので、今頃引っ張りだこで人気だろう。
 だらだらと歩きながら今年あったことを思い返していると、ふと気づいたことがあった。
「なぁ、聞いてくれよ」
「あん?」
 先を歩いていた友人は、柄の悪い返事をして振り返った。
「何?」
「俺さあ、今年滑ってないんだよね」
 友人は今年いちばん怪訝そうな顔をした。
「何言ってんだ、一昨日サークルの忘年会でことごとくダダ滑りしてたじゃねえか」
「そういう精神的にくるツッコミやめろよ。そうじゃなくて、物理的に。俺、今年転んでないんだよ」
 つま先で地面をとん、と突く。俺は友人に大して、にやりと笑みを浮かべた。
「この凍結した路面で、俺は摩擦係数を維持することができている。まあ流石のバランス能力といったとこ」
 ろだろうか。
 言い終わる前に、踏み固められいい加減に凍結した雪道に接地した俺の靴底は耐えきれずに等速直線運動を開始した。
反転する視界。跳ね上がる鼓動。視界に入った友人の顔は爆笑していた。
べしゃん。



あとがきに近い何か
目薬の毎年恒例イベント、うそつきシリーズの更新です。摩擦係数とか等速直線運動って言いたかっただけでした。
2011年の1月2月3月はジュケンセイだったので、滑るとか転んだとか言わずに、「うっわー、摩擦係数が限りなくゼロに近づいたわー」ですとか、「やっべっ、等速直線運動しちまった!」だとか言っていました。
2012年にジュケンセイの方は、頑張ってくださいね。よいお年を。


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© 2008- 乙瀬蓮