未必の戀の返りごと




戀フ魚
キスの日ネタです。
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「キスの日だよ諌名ちゃんキスの日キスの日キスの日!! キスしよう諌名ねえ諌名聞いてる? 聞いてないよね?」
 日付が変わった瞬間に諌名にしなだれかかって、貴臣は彼女が読んでいた図鑑を取り上げた。あ、と彼女が小さく上げた声は、どうやら図鑑を取り上げられて残念がっている様子。それを見て、貴臣はむっと頬を膨らました。
「ねえなんで俺のこと無視すんの? 俺より図鑑の方が面白い?」
「ええ」
「はァあ!? 今頷いた? 肯定した? マジで!? 信じられなァい! 俺とお話する方が百倍面白いでしょォねえそうだよね諌名ちゃんねえねえ答えてよ構ってよお諌名ちゃァあん」
「うるさい、返して」
「キスしてくれたら返す」
「じゃあいらないわ」
「やだぁー! ねえ構って諌名、キスしてもいい? だめ? ねえせめてお返事くらいくれないと無理矢理襲っちゃうことになるんだけどいい訳ぇ? ねえねえ諌名ちゃんってばぁ」
「だから、」
 諌名の声が少し苛立ったような色を帯びた。
「いつも、好きにしてって言ってるでしょう。どうしていちいち同意を求めようとするの」
 その無表情の目がすこしだけ照れたように潤んでいることに気づいて、貴臣はくすりと微笑んだ。
「ああ、してほしいってことね」
「違う」
「じゃあしなぁい」
「それじゃあもう寝るわ」
「ああ諌名ちゃん拗ねないでってばもう、かわいい……」
 諌名の首筋に鼻先を埋めたまま押し倒して、貴臣はあ、と口を開けた。首筋に這う舌と牙の感触で、諌名が僅かに眉を顰めたのがわかった。
「きすじゃないの」
 不満げな声がしたので、噛みつきながら、答える。
「あとで、いっぱいするから」
 仕方ないひとだわ、と言った諌名の声が、本人はきっと気づいていない、けれどいちばん甘かったこと、貴臣は黙っていることにした。
 黙っていることにした。



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