未必の戀の返りごと


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惚れ薬


 アルバイトの時間が終わって帰り支度をしていた諌名に御堂島が見せたのは小さなガラスの小瓶だった。
「じゃーん」
「……何」
 引き気味に諌名がそう言うと、御堂島は人当たりの良い笑顔を浮かべて、こう言った。
「惚れ薬をね、作ってみました」
 なんとなく嫌な予感がしたので、諌名は鞄を持った。
「私、帰るわ」
「ちょっと試してみてくれない?」
 ほら、きた。
 諌名は嫌そうな無表情で答えた。
「相手が居ない」
「いるでしょ、あいつに使ってみてよあいつに」
 諌名と御堂島の間であいつと呼ばれるのは一人しかいなかった。
「嫌よ」
「なんでさー! 別にいいじゃん」
 駄々をこねる御堂島を眇めた目で見遣って、諌名は「嫌なものは嫌」と言った。
 そもそも、あれに使ったところで効果などないのではないかと思う。
 最も強い魅惑の術を使う吸血鬼に、惚れ薬なんて。
 ――それに。
 諌名は不機嫌なまま言った。
「そういうの、普通は片思いのひとが使うんじゃないの」
「……そうだけど」
「じゃあ、他を当たって」
 足りているのだった。
「これ以上好かれても困るの」
 うわっ、惚気た。
 御堂島のおののく声を聞き流して、諌名は店を出て行った。

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