廃ビルのエレベーターで過ごし始めて、二週間が経過した。
暮らしに特に支障はない。電気は通じているから私のピット君も問題なく稼働している。パソコンだって動いているし、テレビも見ることができる。眠るときは元から丸まっているので、狭い思いもしていない。一人で暮らすなら、なかなか快適な空間だ。
風呂がついていないのが少し気になるところだが、それは近くの銭湯を利用すればいいだけの話。
ただ、唯一の不満は出入りである。扉が普段開かない上エレベーター自体が一階に固定されてしまっている(だから安心して住めるのだが)ので、私はわざわざ屋上まで階段を上りメンテナンス用の出入り口から一階まで整備用のはしごを降りているのだ。仕方がないかなとも思うのだが、やはりすこし面倒くさい。
まあ、しかし。つまるところ、私はエレベーターライフをエンジョイしているのだった。
そもそも私がエレベーターで暮らし始めたのは、住んでいた家の扉が何者かに破壊されていたという不可解で理不尽な現象が原因である。家賃の滞納も災いし、マンションの管理人に追い出されることが決定してしまった私は、二日三日のうちに新しい住み処を見つけなければならなかった。
とはいえ、突然十六歳の娘が明後日から住まわせてくださいと土下座したところで住ませてくれる家など思い当たらない。
途方に暮れて、バイトの同僚である少年に良いところはないかと尋ねると、彼は「ああそれならオレが今住んでるとこに来たらいいじゃん、今なら選り取り見取りだぜ」、と簡単に答えたのだった。
彼は、二階の応接室に住んでいる。
他にも複数名の居住者がおり、まるで寮かマンションのような様相と化していた。
© 2008- 乙瀬蓮