件名:ねえ
本文:今日のテレビ、何を見た?
――見て、いない。
私はいつも彼に向けるのと同じ仏頂面を携帯のディスプレイに向けて、憮然と返信をした。
件名:Re:
本文:見てない
送信。
鳥が封筒をくわえて飛び去っていく送信画面を見ながら、私は憮然としていた。
このような、嫌がらせのようなメールを毎日きっかり十一時に送ってくる彼は、私の同級生だった。
四月、進級に伴ったクラス替えで同じ学級になった。名簿が近かったので、隣の席になった。
それだけ。
去年も、その前の中学時代も、隣の席の男子と会話をしたことはなかったので、今年もそうだと思っていた。
五月の連休明けの席替えまで、それだけだと。
その油断が命取りだったと言える。
思い出しても腹が立つ。
――ねえ、ササクラさん
始業式の日、ホームルームがつつがなく終了し、筆箱を鞄にしまおうとした時だった。
人当たりの良い笑みを浮かべた彼は、私に話しかけてきたのだった。
――君、テレビとか、見る?
――見ない。
驚いた私が反射的にそう答えると、彼はにっこり笑った。
その直後、携帯を奪われ、勝手に赤外線の通信を行われ、返却された時には彼の……五味くんの、電話番号とメールアドレスが、アドレス帳に追加されていた。
――じゃあ今晩メールするね、また明日。
言い放って逃げ出した五味くんの通り魔的犯行のおかげで、こうして私は、毎日つまらないメール交換をする羽目に陥っている。
© 2008- 乙瀬蓮