目薬が差せません。


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被独占欲


「人と関わるというのは、難しいわね」
 そんな声が聞こえてきたので、貴臣は視線をテレビ画面から上向けた。彼女はテレビでも貴臣でもなくテーブルの上の花を見ていて、その目はすこし疲れたように細くなっていた。
 そういえば彼女が高校で所属している委員会で会議があったのだという話をさきほど聞いた。それで何かあったのだろうか。
 諌名は貴臣以外の人間と話すことが苦手だったから。
 それが本当は「貴臣以外と」なんかじゃなくて、「親しくない人間と」だということもいい加減気づいてはいたけれど、貴臣は知らない振りをしているのだった。
「あなたに監禁されるのも、悪くなかったかもしれないと思ってしまったの」
 その言葉に多少動揺して、貴臣は折角の膝枕から起きあがった。
「なぁに? そうしたいなら今からでも遅くないけど」
「いいえ」
 まだいい。
 少しため息の交じったその声に、貴臣は大仰に落胆してみせる。
「なんだぁ」
「ただ、繋がれていないのは落ち着かないと思っただけ」
「手?」
「首」
 その言葉に、貴臣は思わず諌名を見遣る。
 交差した視線はまるで人間みたいに柔らかくて。
 そのまま頭から呑んでしまいたいような感覚に陥った。
「やっぱり、慣れないわ」
 我に返ると、諌名は立ち上がっていた。
「寝る」
 歩き去ろうとするその手首を掴んで、貴臣は思わず口を開いた。
「諌名ちゃんさあ」
 黙って振り返った諌名の目を見据えて、告げる。
「一生そのままでいいよ。慣れないままで」
 だからそのままでいてよ。俺に繋がれていたいと思う諌名のままで。離れてなんかいかないで。
「ね?」
「そうね」
 甘える口実が減ってしまうのは困るから。
 そう言って、諌名は甘く微笑んだ。





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